自筆証書遺言書保管制度

自宅で作成できる自筆証書遺言は2020年から法務局で保管してもらえる制度が開始されました。利用するためには作成様式の厳格な要件に注意する必要があります。要件を満たさないと遺言としての効力がなくなる恐れがあります。遺言書の正しい書き方や注意点について考えてみましょう。

【1】遺言書の原本とその画像データが法務局において保管されます。
   紛失や盗難、偽造や改ざんを防げます。
【2】相続開始後、家庭裁判所における検認が不要です。
【3】相続開始後、相続人等の方々は、法務局において遺言書の閲覧ができ、遺言書情報証明書の交付が受けら
   れます。データも管理しているため、全国どこの法務局においても遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交
   付が受けられます。
   (遺言書の原本は、原本を保管している遺言書保管所においてしか閲覧できません。)
【4】通知が届きます。  

関係遺言書保管通知
関係遺言書保管通知相続人等のうちのどなたか一人が、遺言書保管所において遺言書の閲覧をしたり、遺言書情報証明書の交付を受けた場合、その他の相続人全員に対して、遺言書保管所に関係する遺言書が保管されている旨のお知らせが届きます。

指定者通知
指定者通知遺言者があらかじめこの通知を希望している場合はその通知対象とされた方(遺言者1名につき、3名まで指定可)に対して遺言書保管所において、法務局の戸籍担当部局との連携により遺言者の死亡の事実が確認できた時に、相続人等の方々の閲覧等を待たずに、遺言書保管所に関係する遺言書が保管されている旨のお知らせが届きます。

自筆証書遺言とは
遺言を作成する人が財産目録を除く全文を自筆で書く遺言書です。

自筆証書遺言は、自分(遺言者)が、遺言の全文、日付、氏名を自分で手書きして、押印をする遺言書です。遺言書の本文はパソコンや代筆で作成できません。民法改正によって、2024年現在では財産目録はパソコンや代筆でも作成できるようになりました。財産目録は預貯金通帳の写しや不動産(土地・建物)の登記事項証明書などの資料を添付する方法で作成できます。その場合には、全てのページに署名と押印が必要になります。

自筆証書遺言の利点

紙とペンさえあればいつでもどこでも作成できます。都合のよいときに自宅で気軽に遺言書を作成できます。

公正証書遺言の場合は公証人の手数料等の費用がかかりますが、自筆証書遺言には作成費用が発生しません。

遺言の内容を秘密にできます。

自筆証書遺言の注意点

一定の要件を満たしていないと、遺言が無効になるおそれがあります。

遺言書が紛失したり、忘れ去られたりするおそれがあります。

遺言書が勝手に書き換えられたり捨てられたり隠されたりするおそれがあります。

遺言者の死亡後に遺言書の保管者や相続人が家庭裁判所に遺言書を提出して、検認の手続が必要です。

自筆証書遺言は法務局で保管可能

自筆証書遺言は基本的に自分で保管する必要があります。ただし2020年7月10日からは法務局で保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」が利用できます。この制度によって、遺言書の紛失や盗難、偽造や改ざんを防げます。通知制度により遺言書を発見してもらいやすくなりました。

なお、一般的に活用される遺言には、自筆証書遺言のほかに、公正証書遺言があります。公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が本人の意向を聞きながら作成してくれるものです。費用と手間はかかりますが、書き方の誤りで無効になる恐れがなく、公証役場で預かってもらえるため紛失のリスクがありません。

自筆証書遺言書保管制度の利点

適切な保管によって紛失や盗難、偽造や改ざんを防げる
法務局で、遺言書の原本と、その画像データが保管されるため、紛失や盗難のおそれがありません。また、法務局で保管するため、偽造や改ざんのおそれもありません。それにより、遺言者の生前の意思が守られます。

無効な遺言書になりにくい
民法が定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて法務局職員が確認するため、外形的なチェックが受けられます。ただし、遺言書の有効性を保証するものではありません。

相続人に発見してもらいやすくなる
遺言者が亡くなったときに、あらかじめ指定されたかたへ遺言書が法務局に保管されていることを通知してもらえます。
この通知は、遺言者があらかじめ希望した場合に限り実施されるもので、遺言書保管官(遺言書保管の業務を担っている法務局職員です。)が、遺言者の死亡の事実を確認したときに実施されます。これにより、遺言書が発見されないことを防ぎ、遺言書に沿った遺産相続を行うことができます。

検認手続が不要になる
遺言者が亡くなった後、遺言書(公正証書遺言書を除く。)を開封する際には、偽造や改ざんを防ぐため、家庭裁判所に遺言書を提出して検認を受ける必要があります。この検認を受けなければ、遺言書に基づく不動産の名義変更や預貯金の払い戻しができません。しかし、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、検認が不要となり、相続人等が速やかに遺言書の内容を実行できます。

自筆証書遺言の要件とは

全文を自筆で書く(財産目録は除く)
タイトルの「遺言書」や本文など、自筆証書遺言では基本的に全文を遺言者が自筆する必要があります。パソコンや代筆は認められていません。ただし財産目録の部分だけはパソコンを使ったり通帳のコピーをつけたりしてもかまいません。その場合でも添付した書面に遺言者の署名押印が必要です。

署名する
遺言書には必ず遺言者の署名押印が必要です。

作成した日付を明記する
遺言書の作成日付は正確に書く必要があり「○月吉日」という表記は不可です。

印鑑を押す
署名したら押印します。使用する印鑑は認印でもよいですが。実印にしておくとより信用性が高いです。

訂正のルール
遺言書の文章訂正方法にも法律が定めるルールがあります。正確に訂正しないと訂正した部分が無効となり、訂正前の遺言の効力が維持されます。

自筆証書遺言の作り方

財産を把握するために必要な書類を集める

遺言書を作成するときには、事前に財産に関する資料を集めます。

・預貯金通帳、取引明細書
・不動産の登記簿(全部事項証明書)
・証券会社などの取引資料
・ゴルフ会員権の証書
・生命保険証書
・絵画や骨董品などの明細書など

誰に何を相続させるのか明示する

誰にどの遺産を相続させるのか明確に書きましょう。相続内容があいまいになっているとせっかく遺言書を残しても無効になったりもめごとになってしまう場合があります。

長男には「ABC銀行XYZ支店 定期預金 口座番号○○○○」、次男には「A株式会社の株式 数量10,000株」などと「どの遺産を、どれだけ相続させるのか」を明確にしておきます。

財産目録はパソコンで作成可能

遺言書には、集めた財産の資料から「財産目録」を作成します。自筆証書遺言の場合でも財産目録についてはパソコンを利用できます。また預貯金通帳の写しや不動産全部事項証明書などの資料の添付でもよいです。

遺言執行者を指定する

遺言書で遺言執行者を指定しておくと遺言内容を円滑に実現できます。信頼できる相続人や法律の専門家を指定するとよいですね。

訂正部分はルールをまもって訂正する

間違ったときは法律の定めるルールがあります。訂正部分を二重線で消し、正しい文言を記入します。

その上で余白部分に「2字削除、4字加入」などと書いて署名押印します。修正テープを使ったり黒く塗りつぶしたりしてはいけません。

遺言で決められる内容については決まりがあります。これについては別の記事でご説明いたします。